Sales Marker代表取締役CEO 小笠原羽恭氏
2024.08.07 Monthly Pitch

「T2D3の2倍の速度」で急成長を続けるSales Marker、代表が語る3つのポイントとは/Monthly Pitch! アルムナイ

「MonthlyPitch アルムナイ」では、これまでにMonthlyPitch にピッチ登壇し、それを機に成長・発展したスタートアップの最新の動向をお伝えします。

新時代の営業手法“インテントセールス”を提唱し、2022年3月の自社サービスローンチから急速に事業を拡大しているSales Marker。同社が手がける「Sales Marker」では企業データとインテント(興味関心)データを組み合わせることで、今ニーズが顕在化している企業を炙り出し、顧客の商談獲得を後押しします。

Sales Marker代表取締役CEOの小笠原羽恭氏によると「ローンチする前から、商談で売れていた」ほど企業のニーズを掴んでいたという同社のサービスは、現在SaaSスタートアップからエンタープライズ企業まで400社以上の顧客に活用されています。ARR(年間経常収益)はローンチ後1年で3億円、1年半で9億円、2年で17.5億円を達成。「現段階ではT2D3(※)の2倍の速度」(小笠原氏)で事業成長を続けているそうです。

急成長中のスタートアップとしても注目を集めるSales Markerですが、なぜこれほどの初速で事業を立ち上げ、成長軌道に乗せることができたのか。今回は小笠原氏がその背景として挙げる「3つのポイント」を中心に、同社の初期の成長を紐解いていきます。

※編注:ARRを年毎に3倍、3倍、2倍、2倍、2倍のペースで事業を成長させること。一般的なSaaSスタートアップの理想的な成長スピードとされる。SaaS投資で著名なBattery VenturesのNeeraj Agrawal氏が提唱した。

 

独自のデータを駆使し、ニーズがあたたまっている企業への狙い撃ちを実現

改めて、Sales Markerとはどのようなサービスなのか。セールステックに分類されるサービスは日本でも増えてきていますが、Sales Markerは独自のインテントデータを駆使しながら、顧客の「商談率」にまつわる課題を解決するものです。

同サービスにおけるインテントデータとは、Webの検索行動データやマーケティングツールに基づく興味関心データなどを指します。これらのデータに510万件もの企業データを始め、何百万件もの部署データや人物データを突合し、分析することで「今、自社サービスへのニーズがあたたまっている相手」をタイムリーに炙り出すことができるのがSales Markerの特徴です。

例えば自社がタレントマネジメントツールを手がける企業だったとします。タレントマネジメントに関心を持つ企業にアプローチをしたいと考えていますが、人材採用や人事データの整備に課題を抱えている企業は膨大な数になるため、これだけでは対象を絞り込むのが難しい。そこでSales Markerを活用すると、今タレントマネジメントについて調べている企業がわかるため、明確なニーズを抱えている企業へ狙い撃ちをするようにアプローチができるといいます。

「新規の商談を開拓する際に、ニーズのある相手がどこにいるのかわからないという課題を抱えている企業が非常に多いです。例えば今までよく採られていた方法の1つが、自社で顧客リストを作成して上から順番に手当たり次第に電話をかけるというもの。この手法では『100件かけて1件商談を獲得できるかどうか』という例も珍しくなく、効率面に大きな課題がありました。営業代行会社に委託する方法もありますが、この場合は代行会社が自社サービスの特徴を正確に理解してくれていないと、やはり効率が上がっていきません。実際にこれらの手段に替わるものとして、Sales Markerに関心を持ってくださる方が増えているんです。」(小笠原氏)

 

Sales Markerは「プロダクトをローンチする前」から売れた

2022年3月のサービスローンチから約2年。着実に事業を拡大してきたSales Markerですが、小笠原氏は成長につながったポイントとして以下の3つを挙げます。

  1. ローンチ前にサービスの「バリュープロポジション」を考え抜いたこと
  2. 初期から開発スピードにこだわり、失注につながる要因を無くしてきたこと
  3. 「インテントセールス」というカテゴリーを創出し、カテゴリーマーケットフィットを意識してきたこと

1つ目は構想段階で、サービスのバリュープロポジションを徹底的に考えたということです。実はもともとSales Markerはビジネスニュース系の別サービスを運営している企業でした。そこからシードの資金調達に当たって複数の投資家と議論を重ね、セールステックの領域を軸にサービスの方向性を見直していったのです。

当時小笠原氏たちが着目していたのが、セールステック領域のサービスは増えているものの「商談の獲得」を直接支援するものはなかなか見当たらないということでした。

自身や創業メンバーの過去の経験からも、営業の現場では「リストの上から100件電話をかけても、1件しか商談が取れない」という状態が決して珍しいことではなく、本気で困っている人がたくさんいるけれど、効果的な打ち手が見つかっていないーー。

小笠原氏たちはその状況を打破できるような解決策に焦点を当て、サービスの方向性を考え続けていたといいます。

「『(相手のニーズとの)タイミングを合わせること』と『直接アプローチすること』が重要だと考えていました。タイミングを合わせる為には、新規の顧客であったとしても、今ちょうどニーズが生まれていることを把握できる必要があります。どうにかしてそんなアイデアを実現する手段はないのか、調べ続けていたところ、海外ではインテントデータを軸としたセールスの手法が生まれてきていることがわかったのです。あくまで海外の先進的なサービスありきではなく、周りで誰も解決できていない課題をどうやったら解決できるのかという考えが出発点でした。」(小笠原氏)

小笠原氏が顧客のニーズに対する解像度を高める上で参考になったと話すのが、オーティファイCEOの近澤良氏が書いた「Burning needs(バーニングニーズ)」に関するブログでした。

「この記事を読んでハッとさせられたんです。顧客がお金を払ってでも今すぐに解決したいと考えている課題を見つけるということは、言葉では簡単に聞こえるかもしれませんが、非常に難しい。私自身、元々ハッカソンやビジネスコンテストに出るのが好きで、その際に作ったものも含めると10個程度のプロダクトを作ってきました。でも本当の意味でバーニングニーズを捉えていると感じたのは、Sales Markerが始めてです。Sales Markerの開発にあたっては、そもそも本当に解決するべき課題ではないものにフォーカスをしたプロダクトをいくら磨いたところで、意味がないという考え方をしていました。別の表現をすると、(プロダクトがない状態で)プレゼンだけでも売れるようなものでなければ、作る必要がないという前提で進めていたんです。」(小笠原氏)

Sales Markerではプロダクトを開発するにあたり、マトリクスを用いて自社サービスのバリュープロポジションを徹底的に整理しました。

最終版のマトリクスでは横軸で「商談のニーズがわかっているか、わかっていないか」、縦軸で「アプローチが多角的にできるかどうか」を基準とし、右上の象限に自分たちのサービスだけが位置するようにして、自社だけが提供できる価値を明確にしたそうです。

マトリクスの作り方については人によっても考え方が変わってきそうですが、小笠原氏流のポイントは「自分たちだけが存在する象限を作り、その価値を磨くこと」。「(同じ象限で)比較されてしまったら負けだと思って、我々が絶対に選ばれるように価値を突き詰めたのがその後の成長につながった」といいます。

「自分たちの中でバリュープロポジションの解像度が深まった状態で商談を始めたところ、プロダクトができる前の状態だったにも関わらず、2社目で契約が決まりました。そのお客様はまさにテレアポを普段からやっていて『100件かけて1件商談が決まるかどうか』という状態に課題を抱えていらっしゃった。その課題が解決されるのであればお金を払ってでも使いたいと感じていただけたことで、明確にニーズがあるのだと再確認できました。もはや自社のバリュープロポジションを整理できたことが全てだった、と言ってもいいかもしれません。」(小笠原氏)

 

開発スピードが顧客獲得に直結する

バリュープロポジションの明確化は主にサービスローンチ前の話ですが、小笠原氏たちが
サービスをローンチした初期の段階から意識していたというのが、2つ目のポイントとなる「開発スピード(開発力)」です。

具体的には顧客から「このような機能があれば導入したい」と言われれば、「(プロトタイプのような状態であったとしても)次の週までにはその機能を開発していた」といいます。

「次々と早いサイクルで機能開発をしていたので、だんだんとお客様から商談中によく聞かれる問いについてはあらゆることが解決できる状態のプロダクトを提供することができるようになっていきました。開発スピードの速さはプロダクトに起因した失注を防ぐことや、PMFまでのスピードを早めることにもつながったと考えています。」(小笠原氏)

ただSales Markerの場合は、単に開発スピードが早いというだけではなさそうです。小笠原氏になぜ同様のプロダクトが国内でなかなか生まれてこないのかを尋ねたところ、「データの面や技術面、事業面におけるハードルが高いからではないか」という答えが返ってきました。

同社のコアとなるのは独自のインテントデータですが、このデータは国内のデータプロバイダーと契約して独占的に提供してもらっているものです。そもそもこうしたデータを国内で扱っているプロバイダー自体が2社しか存在せず、Sales Markerでは双方のデータを見比べた上で、最もデータの質が良く、量が多い企業と独占契約を締結したといいます。

SalesMarkerの創業メンバー。後列右が取締役CTOの陳晨氏。

SalesMarkerの創業メンバー。後列右が取締役CTOの陳晨氏。

そもそもこのデータプロバイダでは保有するデータを「広告配信」分野で扱っていたそう。そこに小笠原さんが「我々がそのデータを使って事業を展開すれば、御社にとっても新しい収益源になる」と提案に行き、新たな用途を発掘する形で取り組みがスタートしたようです。

この希少なデータに対して、Sales Markerは500万社を超える企業データや部署データ、人物データを組み合わせて分析をしています。「どの企業のどの部署の誰に対して、どんな訴求をするのが効果的か」を割り出すにはこれらのデータが不可欠ですが、そこで鍵を握るのがその結果をリアルタイムで毎日出力することができるかどうかです。

その点、Sales Markerの取締役CTOである陳晨氏はLINEや日本マイクロソフトなどで膨大な量のビッグデータを扱ってきた経験があり、同社の構想を実現する上では打ってつけの人物だったわけです。

また現場で成果を出す上では、データがあるだけでは不十分だというのが小笠原氏の考えです。営業パーソンがいかに同じようなフローで成果を出せるのか、そこには「現場に寄り添った経験やノウハウ」が必要であり、キーエンスで営業の現場を経験してきた取締役COOの荻原慎太郎氏の経験が散りばめられているといいます。

このようにデータ、技術、事業にまつわるハードルを超えられるケイパビリティやバックグラウンドを持った創業チームを組成できていたこと。これがSales Markerの開発力や開発スピードの土台になっているといえるでしょう。

 

「カテゴリーマーケットフィット」という考え方

最後に3つ目のポイントとして小笠原氏が挙げていたのが、カテゴリーマーケットフィットという考え方です。スタートアップでは「プロダクトマーケット」という言葉がよく使われますが、小笠原氏の場合はカテゴリーマーケットフィットにこだわったといいます。

「例えばセールスフォースがCRMの領域で圧倒的な存在であり続けている背景には、同社が自らSaaSやCRMという概念を創出したことがあると思うんです。だからどんなにCRMのプレーヤーが増えても、必ずセールスフォースが選択肢の1つに入ってくるし、顧客に想起される。何ならセールスフォースという名前をつけた時から、勝負に勝っていたんではないかと思います。これを別の領域で再現しようとするならば、どうすべきか。自分たちがサービスを届けたい市場にフィットしたカテゴリーを自分たちで生み出し、その概念自体を広げていくことが重要だという結論に辿り着いたんです」(小笠原氏)

今でこそ「インテントセールス」というワードが徐々に定着しつつありますが、ローンチ当初にSales Markerが使っていたのは「セールスインテリジェンス」という表現です。

ところがこのワードは顧客に覚えてもらうことが難しく、一向に定着することはありませんでした。自分たちから提案をすれば興味を持ってもらえるものの、インバウンドの問い合わせは思うように増えていかない。それが当時のSales Markerの課題にもなっていたといいます。

「そんな時、ある勉強会でインテントセールスという言葉を使ってみたところ、会場にいた30人の方々が口を揃えて『インテントセールス面白いですね』とおっしゃったんです。以前はSales Markerという名前すら覚えていただくのに苦労していたのに、インテントセールスという言葉に変えた途端、反応がガラッと変わった。明確な理由はわからないのですが、人の頭に入りやすいワーディングがあることに気づいてからは、インテントセールスという言葉を言い続けるようにしました。」(小笠原氏)

インテントセールスというカテゴリーを創出する上では、このワードを軸としてプロモーションを戦略的に実施。その一環として出演したビジネスメディア「PIVOT」のコンテンツは反響が大きく、「それまでは月に100件程度だった問い合わせの数が、1週間で300件まで増えた」そうです。

今では最初にインテントセールスというカテゴリを認知し、そこからSales Markerに興味を持つ企業も増えてきているといいます。

 

セールスマーケティングにおける課題を網羅的に解決し、2028年にはARR8倍へ

Sales Markerの皆さん(小笠原氏の「X」から)

Sales Markerではこれまで「商談の獲得」に焦点を当ててサービスを開発してきましたが、今後はその前後の工程へと課題解決の対象を拡張していく計画です。

具体的には商談獲得の前段階にあたる「インテントの創出」や「リードの獲得」に加え、商談獲得後の「受注(クロージング)」、さらにはセールス人員のリソース不足を解決する「セールスに特化した人材採用」に関するプロダクトを投入するといいます。

小笠原氏が見据えているのは、これらのプロダクトを統合したコンパウンドスタートアップ。事業の幅を広げながら、2028年までにARRを8倍にすることを目指しています。

「このプロダクトラインナップが揃えば、企業のセールスマーケティングにおける課題を網羅的に解決することができます。Sales Markerとしても、この構想を実現できるかどうかは
今後の成長の大きな分かれ目になります。将来的には他領域への事業拡大も考えていますが、まずはインテントデータを活用しながら、セールスマーケティングの領域でお客様の課題解決に取り組んでいきます。」(小笠原氏)

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