2024.02.21 Monthly Pitch

中小企業のITニーズ御用聞きサービス、ユーティルが新たな資金を得てピボットへ/Monthly Pitch! アルムナイ

ユーティル 代表取締役 岩田真氏

「MonthlyPitch アルムナイ」では、これまでにMonthlyPitch にピッチ登壇し、それを機に成長・発展したスタートアップの最新の動向をお伝えします。

Web制作会社を無料で紹介する「Web幹事」をはじめ、「動画幹事」「システム幹事」など、社内にIT人材がいない中小企業に対し、さまざまな〝幹事シリーズ〟を展開するユーティル。前回、MonthlyPitchに登壇いただいたのは2022年11月のことです。1年以上を経て、どのような変化があったかをお聞きしてみました。

MonthlyPitchで出会った新たな投資家から5億円超を調達

ユーティルは2023年12月、VCのKUSABIなどから5.4億円の調達を発表しました。創業者で代表取締役の岩田真さんは、ユーティルを始める前、ジャフコでベンチャー投資を担当していて、KUSABIの創業メンバーのうち、ジャフコ時代の先輩の吉田淳也さんとは面識があったそうですが、今回の投資を担当されたのは渡邉佑規さんでした。

「KUSABIに渡邉さんがいらっしゃることは知っていたのですが、お会いしたことはありませんでした。MonthlyPitchで当社のことを知っていただいて、悪くない評価をつけていただき、ちょうどファイナンスする時期だったので、お話をしましょうというのがスタートだったんです。」

以前の調達は2021年10月のシリーズAラウンドでしたから、おそらく、このタイミングで考えていたのは、ポストシリーズ Aラウンドか、シリーズBラウンドといったところ。事業成長が順調だったことや、それまでの投資家(株主)との調整などから、この調達後にIPOを目指す計画があったそうです。

ちなみに、KUSABIとは、ニッセイ・キャピタル出身でアクセラレータ「50M」を始めた永井研行さん、ジャフコ出身で日本版「MIDAS LIST」2位に輝いたことがある吉田さん、グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)出身で通算13社をイグジットさせた渡邉さんの3人が創業したファンドです。

KUSABIは当初から、出資する際にはリードインベスターの立場を積極的に取りたい、と公言していました。リードを取るということは、投資先の成長に責任を持つことになるので、2023年12月のラウンドが初めての出資だったのにもかかわらず、ユーティルの将来にそれだけの可能性を感じ、惚れ込んだということでしょう。

「これまでは、「Web幹事」「動画幹事」「システム幹事」は、いずれも、Web制作、動画制作、システムの提案や運用をを提供できる事業者とニーズのある中小企業をつなぐ相談窓口&マッチングサービスでした。
しかし、渡邉さんと、結局、3〜4ヶ月くらい話しあって、「それだけでIPOするのではもったいない。もう一段大きなビックピクチャーを描こうよ」と言っていただき、最終的に目指す方向性を書き直して、昨年(2023年)、新たなスタートを切ることになりました。」

目先のIPOを急がず、より大きな事業を目指してピボット


Image credit: Utill

ピボットによって何が変わったのでしょう。いわゆる幹事シリーズは営業を継続していますが、ユーティルではクライアントのLTV(顧客生涯価値)を意識する形にビジネスを変化させつつあります。

「渡邉さんに出会うまでは、これまでのマッチングサービスというシングルトランザクションを高速で繰り返すことで事業を大きくしていこう、という戦略だったんです。
でも、それだと大きくなるにも限界があります。せっかく、中小企業の顧客から頼られているのだから、そこは顧客担当制にして一社一社により丁寧に寄り添おう、ということになりました。
そうすることで、日頃から末長く中小企業に伴走するビジネスモデルに切り替えようというジャッジをしました。お客様からのお金のいただき方としては、以前のシングルトランザクションに加えて、新規のサービス・事業を検討しています。」

ユーティルは毎度、求められた事業者をマッチングするだけでなく、お客の悩みに対峙しているので、言わば「カルテ」を作れるようになります。お客から求められてはいないものの、提案すれば便利に感じてもらえる価値も提供できるでしょう。ひいては、遅れているとされる中小企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)にも効果が期待できます。

大きな価値を提供できれば、スタートアップはさらに成長できます。短期でのIPOより、大きく成長してからイグジットする。日本のスタートアップシーンも変わりました。

思いのほか大きい、中小企業のDX市場


Image credit: Utill

かくして、ユーティルはビジネスをピボットしたので、現在はプロダクトマーケットフィット(PMF)の真っ最中。「PMFをやり直している最中に、シリーズBというのはおこがましい」と恐縮し、岩田さんは昨年の資金調達について「まだシリーズAか、ポストシリーズAくらいだと思っている」と語るのでした。

KUSABIの渡邉さんからのハンズオン支援も充実していて、多い時で週に一度程度、現在でも月に一度程度は、岩田さんから報告をしたり、相談にのってもらったりしているそうです。通算13社をイグジットさせた渡邉さんの自信と、岩田さんの渡邉さんに対する信頼が、今回のピボットの成功のカギの一つになっているのかもしれません。

中小企業に対し、必要な時だけ呼んでもらう相談窓口サービスから、常にソリューション提案で伴走できる〝サザエさんの三河屋さん〟的存在に。この「御用達経済」とも称されるモデルは中小企業とも相性がいいのです。スタートアップの話では競合を意識するのが常ですが、中小企業DXの市場は非常に大きく、そのリスクも軽減して捉えることができます。

「大塚商会のような存在を非常に意識しています。彼らは企業に複合機のリースのような形で入り込む。そうしてできた顧客との関係性から、必要に応じてソリューションを提案していくんです。ピボットはしますが、幹事シリーズだけの時と変わらず、「中小企業のデジタル化」という我々のミッションはそのままです。」

ミッション=山はそのままで、その山の登り方を変えましょう、というのが今回のピボットの趣旨のようです。山の登り方を変えたことで、予期していなかったメリットもありました。事業開発を担当し、将来は、会社の核を担ってくれそうな人材が数名新たに入社しました。事業のレベルが以前よりも一段進化したことを示すエビデンスと言っていいでしょう。

常に顧客と繋がった状態にある「相談窓口」という立ち位置は、あらゆるビジネスの顧客のリードを確保するという観点から非常に強い存在です。事業開発可能な人材を迎えられたことで、ユーティルはミッションそのままに業容拡大することも期待できるでしょう。〝時間を買う〟ために、今後はシナジーのある他社の買収も視野に入れたい、とのことでした。

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