BPOに続きクラウドサービスを正式ローンチ、プレカルが薬局DXの先に見据えるものとは/Monthly Pitch! アルムナイ
プレカル 代表取締役 大須賀善揮氏
本稿はベンチャーキャピタル、サイバーエージェント・キャピタルが運営するサイトに掲載された記事からの転載。毎月第2水曜日に開催される Monthly Pitch へのピッチ登壇をご希望の起業家の方、オーディエンス参加をご希望の起業家の方の応募はこちらから
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起業家で薬剤師でもある大須賀善揮(おおすが・よしき)氏に、自身の事業であるプレカルについてMonthlyPitchでピッチいただいたのは2023年4月のことです。それから約1年の月日が経過しようとしていますが、同社は今年1月に2億円を新たに調達し、従来からの BPO(処方箋入力代行サービス)に加え、クラウド型次世代レセプトサービス「プレカルレセコン」を正式ローンチしました。
大須賀氏にプレカルの現在と今後の展開について伺いました。
薬局現場での経験から生まれた課題意識
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プレカルを運営するのは、薬剤師として数多くの薬局で実務経験を積んできた大須賀善揮(おおすが・よしき)氏です。大須賀氏は自らが薬剤師として働いていた当時、処方箋の入力作業には多くの課題がありました。当時薬局で使われていたレセプトコンピュータ(レセコン)はレガシーシステムで、UIの操作性が悪く、価格も高額なので、薬局に設置できる端末台数にも限りがありました。
患者から受け取った処方箋の内容を入力するには、薬局内に設置された1台のパソコンでしか処理ができず、患者によっては複数の処方箋を持参するケースも多く、その場合は薬剤師が1人ずつ順番に内容を入力する必要がありました。したがって、他の薬剤師が調剤を終えても、処方箋の入力が終わっていないと、次の患者の対応に移れないという事態が日常的に起きていたそうです。
「薬局内には複数の薬剤師がいて調剤を同時に行っていても、入力が終わっていないために、次の患者さんが長時間待たされてしまう事例が多々ありました。誰か1人しか入力できないことがボトルネックとなり業務が滞るのです。入力作業への負荷が大きいため、一部薬局では入力専門のスタッフを配置する必要すらあり、人件費の増加にもつながっていました。」(大須賀氏)
処方箋の入力だけでなく、薬剤師には、処方内容をもとに調剤報酬を計算したり、薬袋に同封する服用説明書を発行したり、お薬手帳へのスタンプを押印したりと、入力作業に付随するさまざまな業務があり、作業負荷は非常に大きくなっています。大須賀氏自らが肌で感じていた薬局現場の悩みを、IT を活用して解決したいという思いがプレカル起業のきっかけとなりました。
クラウド×BPOで業務効率化
BPOサービス「precal」
Image credit: Precal
大須賀氏が目指したのは、レセコンシステムの現状を根本から改革し、薬局の業務効率化を実現することでした。当初はBPO、つまり、遠隔での入力代行サービスを先行させていましたが、先ごろ正式にお目見えしたのが、クラウド上でのデータ処理を実現するプレカルレセコンです。従来システムと違ってクラウド上に構築されており、薬局内の複数のパソコンからアクセスできます。
「クラウドベースのシステムなので、従来の1台限定ではなく、薬局内のどのパソコンからでもシステムにアクセスできます。薬剤師全員が同時に処理作業を進められるので、入力業務の効率化が期待できます。(大須賀氏)」
「プレカルレセコン」
Image credit: Precal
しかし、医療分野におけるシステム開発には、さまざまな高い障壁もありました。処方される薬は患者の症状によって千差万別で、一つ一つのパターンをシステムに落とし込まなければなりません。処理できない処方パターンが一つでもあれば、薬局でのシステム適用に問題が出てしまうので、あらゆるパターンに対応できる、柔軟な設計が求められました。
そのため、プレカルでは、実際の薬局でのさまざまな症例を想定し、ドメイン知識を深く持つ技術者との知見の共有を徹底しました。膨大な処理パターンを網羅したシステム構築を行ったそうです。また、極めて機密性の高い個人情報を取り扱うシステムなので、セキュリティ面での対策が不可欠でした。
「処方データには当然、患者のプライバシーに関わる非常に機密度の高い情報が含まれています。徹底したリスク管理と堅固なシステム設計が必要になりました。外部委託先の管理体制にも細心の注意を払い、処方情報の流出防止に最善の対策を講じました。こうして、開発の過程では試行錯誤を重ねる必要がありましたが、長年の課題だった処方入力の効率化に解決の糸口をつかむことができました。(大須賀氏)」
新規の薬局を開拓、将来は機能拡張で「医療の質」向上も視野に
プレカルレセコンは2022年1月にリリースされ、開発から本格的な薬局への営業展開フェーズに移行しています。現在は、開局したばかりの新規の薬局からの導入を優先的に進めているそうです。
「新規に開局する薬局からはじめ、導入実績を重ねられるよう注力しています。既存薬局の場合、過去のレセコンシステムからのデータ引き継ぎなど、それなりの手間が必要になります。そのため、まずは開局したての薬局から採用を進め、障壁の低い導入方法で浸透させることが狙いです。次のステップは、大手ドラッグストアチェーンなどの既存薬局への展開ですね。
将来は、プレカルレセコンの機能拡張による付加価値の提供も視野に入れています。次の開発のターゲットは、調剤報酬の自動計算や、患者データの一元管理や医療機関を跨いだ共有化などの機能拡張です。単なるレセコン業務の効率化にとどまらず、薬局運営を通じて医療の質の向上につながる付加価値サービスの提供を目指します。(大須賀氏)」
薬局の現場で感じた課題に立ち向かおうとしたことで、薬局のみならず、医療分野全体の DX(デジタルトランスフォーメーション)にも貢献できる可能性も見えてきました。プレカルの今後の進展に期待です。