環境エネルギー投資キャピタリストに聞いた、ESG投資の今と未来 〜投資トレンドの新基軸と世界の潮流〜
<出演>
ゲスト:山岸 龍博(環境エネルギー投資 EEIキャピタリスト)
MC:北尾崇(CyberAgent Capital シニア・ヴァイス・プレジデント)
2022年以降、投資トレンドの大きな変化として、C 向けは Web3、B 向けはカーボンニュートラルに、スタートアップ投資の波がやってくるのではないか、という話をよく耳にします。国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)、 ESG 投資(環境・社会・ガバナンスの3要素を考慮した投資活動)は、起業家・投資家の双方にとって意識すべきキーワードになっています。
とかくスタートアップの世界に身を置くと、素晴らしいビジネスモデルを得て、お客であるユーザの体験を最良のものにし、売上や利益を追求することに傾倒しがちですが、そこで SDGs や ESG 投資は共存できる概念なのでしょうか。環境や社会に配慮するあまり、事業をスケールさせるスピードが鈍ることは許されることなのでしょうか。
「環境」という言葉が社名に冠されていることからもわかるように、この分野の話を聞くのに最も相応しい VC は環境エネルギー投資ではないでしょうか。設立は2006年で、まだ SDGs や ESG 投資が話題になる遥か以前から、この分野に特化した投資活動を続けてこられました。自らも電力会社で新事業開発に携わった経験のある、山岸さんに話を伺いました。
以下は、ディスカッションの要旨です。ディスカッションの全編は動画をご覧ください。
北尾:ESGの中でも、E(環境)マーケットのどの辺りに事業機会を感じていますか?
山岸:我々は「環境エネルギー投資」という会社でして、2006年設立の環境・エネルギーに特化した独立系のベンチャーキャピタルです。私としては、再生可能エネルギー分野はまさにこれから、より加速していく非常に大きなマーケットビジネスチャンスじゃないかなという風に見ています。一つ象徴的なニュースとしては、昨今、2050年までにカーボンニュートラルを目指していくと国が宣言しました。もっと足元でいけば、2030年までにCO2の排出を2013年度と比べて50%弱ぐらい減らすことを目標として政府が掲げています。
これはすごくチャレンジングなことです。FIT制度(再生エネルギー買取制度)が2012年に導入されました。これは非常に経済的インセンティブを持たせた仕組みになっていて、直近の10年間は再生可能エネルギーが電源比で10%弱から20%弱までと約2倍に伸びました。しかし、政府がいま掲げているように2050年までにカーボンニュートラルを達成するためには、再生可能エネルギーを今の20%からさらに倍の40%にしていかなければ実現が難しいという風な電源構成比になってくるんですね。
たとえば、太陽光の容量を今ある容量から倍に、2030年の倍にとしていかなければ、カーボンニュートラルを達成するためにはもう間に合わないと言われているような状況です。これはとてつもなくチャレンジングなことだと思っております。
ただ、チャレンジングだからこそ事業の魅力もあると思っております。昨今は土地だけでなくいろんなところに既に太陽光などの再エネを設置していて面がだいぶなくなってきている。じゃあ、そういう中でどうやって容量を増やしていくのかと考えた時に、いろいろとアイデア、ノウハウといった知恵が出てくる。故に、大企業ではなく、スピード感を持ったスタートアップが入ってくるチャンスがあるという風に思っております。
たとえば弊社の場合、メディオテックさんという会社がございまして、集合住宅のようなところに太陽光パネルを設置するということをやっています。これは昔は、大手の電力会社さん含め誰もやってなかったんです。ここに、なぜ集合住宅に設置できるのかというノウハウや知恵があるんです。今までに誰も考えていなかった、誰もやらなかったことをスタートアップさんがやっていくところに新しいチャンスが出てくるんじゃないかなという風に思っております。
山岸龍博氏のプロフィール
北尾:山岸さんは、環境エネルギーの領域で海外でも投資活動をされてきました。(編注:ドイツでブロックチェーンを活用した新たな電力小売ビジネスの事業開発に携わる。さらに、欧州大手電力会社のベンチャー投資部門に従事)。日本政府は高い目標を掲げているという指摘がありましたが、海外、特にヨーロッパなどの動きが影響しているのでしょうか?
山岸:おっしゃる通り、欧米含め海外は再エネという文脈では日本よりも先行していると思います。マーケットも、スタートアップなどいろんなところが入ってきやすい仕組みをいち早く導入したり、あるいは欧州の政府が行っている仕組みとして、補助金をしっかりと出すことによって、資本が劣っているスタートアップでも参加できるような盛り上げ方をいち早く導入しているということがあります。
ここはプラスに捉えて、どうやったら日本でより効率的にトライアルができるのかを、経産省はじめ大手電力会社としっかり議論した上で、日本版の仕組みを作ってきております。日本もまさに今年から、海外版から持ち込んだ日本版という形でエネルギーに関する新しい市場に取り組んでいくと。タイムマシーン型のように、海外の先行しているところを参考にしながら欧州のスピード感に置いてかれないようにしっかりとやっていくというのが、ちょうど今の日本のフェーズになるかなと思います。
北尾:環境領域での事業や投資をやっていない方々からすれば、マネタイズがちゃんとできるかというのが気になるところです。今投資されているところ、今後投資されていくところで、どんなマネタイズポイントを考えながらご出資活動されていますか?
山岸:冒頭で申し上げました通り、我々は独立系のベンチャーキャピタルで、フィナンシャルリターンを追求しているベンチャーキャピタルではございます。なので必ずリターンというところは意識しながら投資活動しているんですけども、我々のもう一つの特徴としては、SDGsの文脈、そしてESG投資もそうなんですが、独自の社内基準を設けた上で「しっかりとインパクトが出せるのか?」「フィナシャルリターンと合わせてどういう社会的なインパクトをもたらすのか?」という二つの軸で投資活動を行っています。
E(環境エネルギー)、つまり環境ですとかESGはどうも儲からないイメージが先行する方もまだ若干いらっしゃるのかなという肌感覚を持っています。でも、我々の捉え方は決してそうではないんですね。我々としましては、言葉を選ばずに言うとESGは儲かる、リターンが出るという風に捉えていて、いわゆるテック系の、リターンが10倍とかっていうのを目指せるようなところに遜色なく、ESGをすれば必ずリターンが出るという捉え方をしております。
あとは細かい話になりますけども、ハード系なのかソフトウェア系なのかというところで評価の軸やリターンの算出方法が異なってきますし、ポートフォリオをしっかり組むことは必要だと思います。でも今ESGで一番大事になってくるのは、時代として正しく捉えて儲かっていくんだということに我々はいち早く気づいているという自負があって、この領域でどういったものが次に来るのかをこの15〜16年ぐらいずっと見ておりますので、そういったところをしっかりとして次を見つけていく。SDGsとESGの文脈を見据えながら投資をしていくと。そう考えております。
北尾:ここ数年で起こりうる変化をどのように捉えていますか?
山岸:こんなことを言うとキャピタリスト失格って言われるかもしれないので、ちょっと恐る恐る申し上げると、3年後、5年後をフォワードルッキングするのはなかなか困難だなというのが私の個人的な意見です。想像しなかった変化が起こってきているのが正直なところで、「将来こうなる」と言うのはなかなか難しく、私としては明確に何かあるかというと今はないという形です。
じゃあどうするかと言うと、定点観測を続けることがまず一つ重要だなと。グローバルで今どういったことが起こっているのか、そして国内では何が起こっているのかをまず正確に把握しながら定点観測を続ける。そこからわずかな変化に気づけるかどうかがビジネスチャンスの次のところに繋がっていくので、ちょっとザクっとした一般論にはなってしまうんですけど、しっかりと定点観測して、変化に気づけるかが大前提として重要かなという風に思っております。
今の市場としては、私どもが身を置いているスタートアップの世界にも確実に変化が現れてきているなという風に見ておりまして、たとえば2021年ですと、大体4兆円強のリスクマネーがクライメートテック系のスタートアップに投資されたと言われています。これは2020年と比べると1.6倍ぐらいの金額になっていて、この5〜6年は右肩上がりで投資金額が増えてきています。
ユニコーンも、海外では2020〜2021年にかけてクライメートテック系と言われるようなところが増えてきている。今後この流れは加速していくと思うんですけども、残念ながら海外と比べると国内での動きはまだ少ないです。クライメートテック系でのユニコーンは残念ながら日本ではまだ選出されていません。まだ出てきていませんし、海外ではクライメートテック系の表彰っていうのもあるんですけど、そういうところでの選出にもまだ日本のスタートアップは出てきていない。
そういった中で、可能性としては今後すごくあると思っております。日本のスタートアップが世界に出ていく可能性がすごくあると感じているので、繰り返しになってしまうのですが、定点観測をして海外との違いは何かをちゃんと理解する。その上で変化はどういったところにあるのかをしっかりと見ていく。おこがましいですけども、スタートアップさんと我々とで二人三脚をしながら一緒にやっていきたいなというスタンスで日々投資活動を行っております。
環境エネルギー投資 Web サイト https://ee-investment.jp/