ソラジマが取り組む「漫画DX」現場支えるCTOの存在【CACテックインサイト】
ソラジマでCTOを務める持田章弘さん
CACテックインサイトは、サイバーエージェント・キャピタルが支援するスタートアップのテックインサイトを伺っていくシリーズです。ChatGPTをはじめ、テクノロジーが大きく動く今、各社の技術的な取り組みをお伝えします。
スマホに最適化されたフルカラーの縦型漫画「Webtoon」を読んだことがある方も多いのではないでしょうか?韓国を中心に世界中で拡大する新たなエンタメ市場に日本から挑戦しているのがソラジマです。2019年2月設立のスタートアップで、LINEマンガやcomicoなどの人気プラットフォームで配信されており、世界11カ国に48タイトルの作品を配信しています(2023年11月時点・ウェブサイトより)。
このソラジマで開発を手掛けるのが、同社CTOの持田章弘さんです。持田さんは学生時代に起業し、いくつかの開発を手がけた後にチャット小説アプリ「CHAT NOVEL」を開発(事業はDMMグループ企業に売却)。その後もスタートアップ数社で開発を続けた、経営経験もあるエンジニアです。
このCHAT NOVELのことを知っていたソラジマから声がかかり、オリジナルの漫画アプリ開発を目指し、2022年に同社へ参画されました。2023年からは同社CTOとしてWebtoon事業を支える様々な開発を手掛けられています。
本稿では持田さんが参加した、ChatGPTを活用した出版アイデアを披露する「出版ハックデイ」に関連してそのアイデアや現在、ソラジマで取り組んでいる開発についてお伺いしました。
ChatGPTの意外な使い方
9月に開催された、出版をテクノロジーから考えるアイデアソン「出版ハックデイ」に参加した持田さん。テーマは「ChatGPT」を活用したアイデアで、持田さんはChatGPTを活用したガイドブックのサービスをプレゼンテーションしてくれました。ここで持田さんは少し意外なアプローチを見せることになります。
写真左から:代表取締役Co-CEOの萩原鼓十郎(こじゅうろう)氏とCTOの持田章弘氏
ーーイベントに参加していかがでした
持田:(ChatGPTについて)強制的に考えなきゃいけない状況を生み出せたので、良い思考トレーニングになりました。他の参加者のみなさんがChatGPTをどう活用していくのか、色々な視点を吸収できた場としてもよかったです。
ーーChatGPTを活用して何か考えて、というお題は各所で起こっていると思いますが、どういうプロセスでアイデアを考えましたか
持田:二つテーマがありましたよね。プロンプトで編集支援を行うこと、あとは出版物に関するサービスを作ることの二つです。出版社の方々がオーディエンスとして参加されるのはわかっていたので、彼らの仕事をAIに置き換えるみたいな見え方をするのはよくないなと思っていましたので、編集支援に関するアイデアはすぐに捨てました。壁打ち程度には使えますが、まだまだAIのアウトプットをそのまま出版するというレベルではないですからね。
ーー持田さんのアイデアは雑誌データを使って自分だけのガイドブックを作る、そんなものでしたよね。興味深いポイントは構造化されていない旅行ガイド雑誌のデータ、つまりデータベースにも収まっていない雑誌のデジタル情報をChatGPTで構造化し、ユーザーが見やすい情報に再構築するというものでした
持田:非構造化のデータをChatGPTを使用して構造化することができたのは非常におもしろかったです。構造化できたからこそアプリに落とし込めたので、こういう活用方法もあるんだと。むしろChatGPTの得意なところはこのような部分なのかなと思いました。
ーーChatGPTでデータを引き出すところ自体は色々な会社が取り組んでいますが、持田さんはある意味、逆のアプローチでしたよね
持田:ガイドブックに掲載されている観光スポットの住所を探し出す作業は、ChatGPTなしでプログラムしようとすると非常に手間がかかる作業なんですよね。ChatGPTを活用することで迅速に実現できました。見たところ不正確な情報は一つもなかったので、これは活用できると思いましたね。
ーーソラジマとしてはChatGPTの使い所ってどのあたりにありそうですか?
持田:実際に現在の制作でも使っていて、それこそ漫画で使うキャラクター名の壁打ちだったり、ソラジマの作品ってドレスを着ている女性がいっぱい出てくるんですけど、Midjourneyとかに西洋風のドレスを着た女性を生成してと言えばいっぱい生成してくれるので、資料としてはとてもよく使えてますね。アイデア出しに便利です。
ソラジマで取り組む「漫画DX」
ソラジマで制作されるオリジナルの作品の数々(2013年12月15日時点)
ーーソラジマにはCHAT NOVELをきっかけに入られたということですが、そもそもご自身でも起業されていたわけですから、また自分でスタートアップすることは考えなかったんですか?
持田:海外のアプリストアのBookカテゴリのランキングを見ると、ほとんどの国でチャット小説のアプリが1位なんですよ。それに比べて日本と韓国は漫画がすごくが強くて、日本のBookカテゴリーのランキングTOP30のうち、Kindle以外全部マンガアプリです。
純粋にマンガアプリたちと同じ土俵で戦えるのはすごい楽しそうだなとを感じたし、自分でも1人でマンガアプリやろうかなと思ってた時期もあったんですけど、独自コンテンツがないとやはり大変だなと。ソラジマはコンテンツも作っているから相性よさそうだなと思って入社しました。2022年3月のことです。
ーーなるほど。それで持田さんは開発として入られたわけですが、現在、ソラジマのコンテンツは独自の漫画アプリ「cosmic」をはじめ、ピッコマやLINEマンガなどに配信をされています。ここの中での技術的な取り組みってどういうところにありますか?
持田:そうですね、大前提としてピッコマやLINEマンガやcomicoで配信して売り上げを立てていますが、1話を作ったらすぐ公開できるわけじゃありません。ピッコマでは何話、comicoでは何話を制作しないとリリースできない、という条件があるんです。なので、企画を立ち上げてからリリースするまで8カ月から1年ぐらいかかっているわけです。この期間が長ければ長いほど、制作費や人件費がかかるため、実際にリリースしてみて、それほど売れないということもあります。
ーーコンテンツ制作のリスクですね
持田:経営的にはできる限り早く売れるかどうかを予測し、ヒット率を向上させる必要があります。そこに技術を使っています。具体的には自社でWebtoonを読むためのビューアーを開発しているんですが、最初の数話が完成した段階でそれを自社のビューアーに掲載し、ソーシャル広告などを通じてユーザーの行動ログ解析からヒット率を予測しているんです。
これまで48(2023年12月15日現在)作品をリリースしてきているので、その分のユーザーの行動ログと売り上げをデータとして持っています。この行動ログを基に、新作と過去の作品で近しい売り上げになりそうなものを比較して予測するんです。予測が出たら、例えばピッコマなどで配信するか、あるいは売り上げの見込みが低い場合は制作を中止し、次の作品に取りかかるかの意思決定を行う。その意思決定の材料を提供しています。
ーーもう一点、Webtoonの制作フローにもいろいろ技術的なサポートが必要になるんじゃないかと想像しています。コンテンツの制作ってどのように進んでいるんですか?
持田:まずは企画を考えるところから始まります。企画を社内で審査し、企画審査を通ったら次はネームを作ってみて、そこも突破したら3話まで完成原稿を作ってみます。3話までの原稿が完成したら前述した自社のビューワーに掲載し、読者データを取得して4話以降も制作を続けるか審査を行います。
ーー明確ですね
持田:1作品で平均で5人から10人くらいのクリエイターと一緒に制作していて、完全分業制でやっています。脚本家、ネーム、線画、着彩、背景仕上げ、いろんな工程の人たちと分業して制作をしていますね
ーーこの辺りの制作工程についても技術的な効率化ができそうな気がするのですが
持田:今、開発部では3話チャレンジの他にデジタル化(DX)をやっていて、ソラジマ社員が触る編集工程用のプラットフォームを作っています。このDXのやりがいがすごくあるんですよ。社内のクリエイターとのチャットツールから、案件の受発注だったり、完成原稿の管理だったりを効率化する専用のツールを開発しているところです。
ーーWebtoon制作のインフラを作られてるということなんですね。
持田:結構ガッツリ開発しているので大変ですね。バグを起こしたらみんなの仕事が止まっちゃうので、緊張感を持って開発してます。ただ、ユーザーは隣の席の人だったりするんですよね。みんなに早く作ってくれと言われたり、「これを作ります」と発表したときにすごく喜んでもらえたり。フィードバックが直にくるのでかなり楽しいです。
ありがとうございました!